今日の日記

2001年11月29日
経過記録

11月27日

AM6:30頃
起床。いつものごとくPCの電源を入れる。いつものごとくいつものチャットにアクセス。いつも話してる相手がいたのでいつものごとくに無駄話に興ずる。
AM7:20頃
「そろそろ仕事に行く時間だから」とかまっとうな社会人のような発言をしてPCを閉じる。もちろんこのときは自分の言葉の正当性を微塵も疑ってはいない。毎朝仕事に出かけるというのは、当たり前以上に当たり前のことだった。
AM7:30頃
出社。車に乗り込んでエンジンをかける。寒い朝。暖気に二分かけてスタート。もともと中古で古い車なので耐久性やら性能やらに不安があるのはいつものこと。不安というより懸念といったもので気にしないようにする。それもいつものこと。
AM7:40頃
交差点で信号待ちしてるときにそれまで重低音だったエンジン音が急にフィルタをかけたように高音に変わる。背中に冷水を浴びたような感覚。瞳孔が一瞬開くのがわかる。だが数秒でもとの低音に戻る。一安心してそのまま信号を右に曲がって先へ。思えばこのときが一日で最も劇的な瞬間だったのかもしれない。物事というものはなんでもあとになってみないと正確に近い評価はできないものだ。
AM7:50頃
丘を駆け上がる急な坂の途中でまたしてもエンジン音が異常に。今度はリアクションをとる間もないほどあっという間だった。警告灯が点きブスブスストンという感じでエンジンが止まる。慌ててクラッチを切り、ハザードを点灯させ路側へ。路側といっても狭い道なので車半分車道へ乗り出している。ラッシャアワなので後ろには長い車の列。それでもなんとか追い抜いて行ってくれてる。ドライバはみんな渋い顔をしてたろう。あとで気づいたがちょうど坂の頂上にあたる場所で止まっていた。幸運だった。坂の途中ならエラいことになってたかもしれない。ただでさえ古い車なのでサイドブレーキも効き辛くなっていた。頂上だったからサイドを起こす必要もない。ともあれ車を降りてフロントのボンネットを開く。知識がないのでどうもできないが何もしないでいるということにも耐えられない。通学途中の高校生の自転車がじろじろとこちらを見ながら通り過ぎて行く。彼らに他意はあるまい。高校生というのはじろじろ見るものだ。少なくともそのときの俺はそう思った。エンジンまわりを見た感じでは特に異常はないようだった。不審に思ったがもしかしたらまだ走るかもしれないと考え、座席に着いてエンジンキーを回す。バッテリが少ない? 回りが奇妙にゆっくりだった。どうにか回った。途端にフロントから白い煙が上がった。車内にゴムを焼いたようなイヤな匂いが漂う。慌ててキーを戻す。煙というのは決定的な迫力を持っている。完全にイカれた、もう動かない、と絶望に似た確信が来た。携帯を持っていなかったのが絶望感に輪をかける。ほとんど使わないので持っていても煩わしいだけだと思っていたが、瞬間的に今後は携帯を肌身離さず携帯しようと固く決心する。なるほど、だから携帯というのか、と妙な得心があった。決心したところで状況に変化があるわけでもない。車の列は途切れることなく後ろから襲ってくる。トランクから非常標識を取り出してセットする。故障であるとアピールしたかったのかもしれない。特に意味のある行動ではなかったろう。開いたボンネットの両側に腕をかけてエンジンルームを睨みつける。無論なんの打開策もない。どうしていいかわからないのでじっとしたまま動かない。昔テストのとき全然わからない問題を睨みつけていたのがこんな感じだったかもしれない。とりあえず考えているふりだけはするものの時間は虚しく過ぎて行く。誰に対してのフリなんだろう?
AM8:00頃
同じ姿勢でずっとエンジンルームを睨んでいる。このときどういうことを考えていたのかはあまりよく覚えていない。多分どうでもいいことだったのだろう。或いはつとめて冷静になろうと必死だったのかもしれない。こういうときは時間の経過は認識し辛くなるものらしい。車の中にいれば寒風はしのげるだろうに。そんなことすら考えが及ばない。
「どうしました?」
背中から唐突に声がかかる。油断していたのでビビる。というよりこんな状況下で誰かと会話する可能性は万に一つもあるまいと考えていた。一体何者だ? と振り返って納得する。同じ会社の同僚だった。今日まで知らなかったが彼も俺と同じ道を通勤していたわけだ。ほかにも何人かそういう人はいるのだろう。それはあってもいいことだ。俺と親しくない人も含めて。渡りに舟という言葉を思い出した。昔からある言葉だ。昔からこういう状況に陥った人は大勢いたということだ。俺だけじゃない。俺が最初でも最後でもない。少しは気が紛れた。少々うろたえながらも彼にとりあえずの経緯を説明する。唐突ではあったが救いの手が差し伸べられようとしているのだ。くだらない言動でチャンスを逃すわけにはいかない。俺はどちらかといえば他人の協力というものを遠ざけようとする傾向がある。だがいまこのときばかりはどうあっても自分の力だけではどうにもならないことは身に染みてよくわかっている。ついぶっきらぼうに、無愛想になってしまうのが俺の持ち前だがそれが出てこないように意識しながら話すのは結構疲れるものだ。「大丈夫です。なんとかしますから」なんて言い出すんじゃないだろうか。自分で自分にハラハラする。どうやらわかってくれたらしい。「携帯ありますか?」という俺の問いにすぐさま取り出し、俺に差し出してくれた。俺は、ありがたい、としか思わなかったが、エンジンが壊れたときが負の劇的瞬間だとするなら、このときが今日の、正の劇的瞬間だったのかもしれない。やっぱり後になってみなければ物事の価値というものはわからない。すべてはここから動き始める。そのためのハードウェアが、いま確かに俺の手の中にある。これさえあれば。あとは俺一人でも大丈夫だ。彼に、俺の事情を会社に説明してもらうように頼んだ。とにかく定時出勤は間に合わない、ひょっとしたら今日は休むかもしれない。電話がある以上それは俺が自分でも通告できるし、またしなくてはならないことなのだろう。しかし、トラブルの最中にあるいま、面倒なこと、考えるべきことはこの際一つでも減らしたほうが安全だ。彼は去った。俺はようやく冷静さを取り戻したようだ。寒い中ずっと外に立ちっぱなしだったことに漸く気づき、いそいそと車内に入る。さて。
(切り)

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